演劇ユニット『SP@CE』

奈良で活動する演劇ユニット『SP@CE』の劇団員ブログ用ページです。 現在、劇団員(役者、裏方)募集中です!

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「ナツマチ」 another story 『the day when snow stopped』。

case of A.suou

『the day when snow stopped』


*************


舗装もろくにされていないような砂利道を軍用ジープで走る。

クッションが悪いのだろう。お世辞にも乗り心地が良いとは言えないが、そんなことにケチを付けるような余裕は、今の軍にはない。

そして、今の私にも…。

空はどんよりと曇っていて今にも雨が降り出しそうだ。

『まるで今の私の心を映し出したようだ』なんて、詩的なことも『アヤ』なら言えたのかもしれない。

曇天を一瞥し、極めて小さな音で舌打ちをすると、ジープを運転している早川伍長がミラー越しにこちらを見て…

「どうかなさいましたか、少佐?」

と、少し緊張した面持ちで訊ねる。

外の景色に目を落としながら、「気にするな」と一言だけ吐き捨てるように呟くと、それ以上追求してくることはなかった。

この辺りの匙加減は慣れたものだ。私の機嫌を損ねない線引きをしっかり理解している。伊達に長年、私の部下をやっているわけではないということか。

しかし、まぁ「雨が降りそうだから機嫌が悪いんだよ」なんて理不尽なことを部下に言うわけにもいかないだろう。

いつからだ?こんなに雨が嫌いになったのは。

…私にもあったんだ…雨降りも悪くないと、そう思っていた頃が。





ぼんやりと窓の外を眺めている。

雨だなぁ…。何だろう?何とも言えず憂鬱な気分になる。

「どうしたんです、アヤ?」

誰かが『アヤ』の名前を呼び、顔を覗き込む。

誰かなんて分かってる。私に…アタシに対して、こんな丁寧な言葉で話しかけるのは彼女しかいない。

「ん~…雨だなぁって思って」

そう言うと、彼女はきょとんとした顔でこちらを見る。

うん。ユキのこういう表情は好きだな。彼女の名前の通り、無垢な新雪のようだ。

「アヤは雨が嫌いですか?」

「ん~…嫌いってわけじゃないけど…何だろうね?何か~…どよんとするよね」

そう言うと、ユキは一拍おいて、くすくすと笑った。何だろう?そんなにおかしなこと言ったかな?

「『どよん』ですか?アヤらしい表現ですね。何となく」

むっ。ユキの中のアタシのイメージってそんなか?『どよん』が、『らしい』って、何かリュウみたいで嫌だな。

「ユキは好きなの?雨」

何かユキ『らしさ』を引っ張り出してやろうと思い、話をふってみる。

「そう…ですね。嫌いじゃないですよ。お洗濯が乾かないのは、ちょっと困りますけど」

何だ。ユキらしいけど、『どよん』とは随分違うな。笑う要素がない。

「でも…そうですね。雨が降ると、ソラがつまらなそうにしてるので、それもちょっと可哀想かなって思います」

「あ~…確かに。外で遊べないもんな。ソラは雨嫌いそうだ」

ソラは快活で元気いっぱい。ユキは大人しくて理知的。…顔はそっくりでも中身は全然違う。

「ユキとソラってさ、見た目はそっくりだけど、中身は全然違うよね?」

「…そうですね。私にも…ソラみたいに可愛いげがあれば良かったんですが」

ん?そういうつもりじゃなかったんだけど…そもそもユキだって十分に可愛いげあるじゃないか。

「いや、ユキだって――」

「しゃべり方とか」

「えっ?」

「しゃべり方とか…変えてみたら良いんでしょうか?ほら。しゃべり方が違うだけでも、随分と印象が変わると思うんです。どうでしょう?」

…どうでしょう?って…思わず少し吹き出してしまう。

「え?え?何です?何で笑うんですか?」

「いやいや、だってさ…」

そんなことで悩んでるなんて、やっぱり十分に可愛いげがあるじゃないか。

「あっ」

そんな言葉を口にする前に、ユキがアタシの後方を見て、小さく声をあげた。

「ん?」

振り返ると、さっきまで覗いていた窓の外に、うっすらと虹がかかっているのが見えた。

「ほら、ね?」

ユキが呟くように話しかける。

「雨の後には虹がかかるんですよ?雨も悪くないでしょう?」


**


…くそ!くそっ!くそっ!!

あの七光りのボンクラ息子め…!

普段はろくに仕事もしないくせに、こんな時だけ余計なことをしやがる!

上官でさえなければ、あの何の役にも立たない頭を、いますぐぶっ飛ばしてやるのに…!

苛々しながら、私は「underground統括支部」の入口前までやってくる。

全身を激しく雨が打ち付けているがそんなことを気にしている場合ではない。

しかし、雨で濡れたせいか、こんな時に限って、指紋認証の読み込みが悪い。更に苛立ちが増していく。

ピッ。

安っぽい機械音が鳴った直後、開きかけた扉に手をかけ、無理矢理にこじ開けると、そこに見慣れた顔があった。早川伍長だ。軍靴を鳴らし敬礼をする彼の儀礼的な挨拶を無視する。

「早川!どういうことだ?説明しろ!」

「す、すいません、少佐。管轄外なのでお引き取り願ったのですが、私の言うことでは…聞いていただけず――」

「権限はこっちにある。こういう時の為に貴様を常駐させてるんだろう。相手が賊でも同じように頭を垂れるのか、お前は?」

彼の胸ぐらを掴み、噛み付くように吐き捨てる。

「も、申し、訳――」

突き飛ばすような強さで掴んでいた手を離す。

…分かってる。伍長を責めるのは酷だ。いくら管轄の違いがあっても、相手は中佐だ。止められるわけがない。…しかし…!

「作戦本部」と記されたドアの前で足を止め、襟元を正しノックをする。

「周防です。失礼します」

ドアを開け、中に入ると、そこにいた男の顔が目に入る。瞬間、眉間に皺が寄るのが分かった。

自分ではポーカーフェイスを自負しているのだが…こうも顔に出るとは…。

「おぉ、周防少佐か。どうした?そんなずぶ濡れで」

…どうした?だと?とぼけやがって…!

奥歯がガチリと噛み合う音が鳴る。今にも掴みかかりそうな気持ちを抑え、奴に…遠藤中佐に用件を伝える。

「…いえ。遠藤中佐が支部に来られ、『立花ユキ』の処分に着手されると、部下から連絡を受けまして」

「それでこの大雨の中、わざわざ戻ってきたのか?律儀なものだな、君も。流石、女だてらに少佐を名乗ってるだけはある。軍人の鑑だ」

と手にしていたワインを飲むと、酒臭い息を吐き、下品な笑いを垂れ流した。…奴の一挙手一投足に苛々する。

「会議の場でも『立花ユキ』の有用性に関してはご説明した筈ですが?今は『立花ソウスケ』の引き抜きのためにも、『立花ユキ』の処分はするべきではない、と。今の軍には――」

喋っている私の声を遮るように、ぽんっと、肩に手が置かれる。

「周防少佐。『アナグラ』の連中に入れ込むのは、あまり賢いやり方ではないな。出世の邪魔になるぞ」

「私は――」

遠藤が、バサッと紙束を机の上に広げる。何かの書類か?一瞬、何のことか理解が出来なかった。…いや、したく…なかったのか…。

「いくら『軍人の鑑』たる君でも、いくらかの情が移るのは仕方ないことだ。…まぁ気にするな。礼はいらんよ。恩に着せるつもりもない。…これからの『君』に期待している」

そう呟くと、遠藤中佐はそのまま部屋から出ていった。

私は震える手で、机に広げられた紙束を集める。そこに記された文字…。

『死亡確認書 氏名 立花ユ…』

目の奥に火が付いたように視界が真っ赤に染まる。激しい雨音がノイズのように耳を衝く。左手に紙束を握りしめる。空いた右手を血が滲むほど強く握り、気づけば私は思い切り壁をなぐりつけ――


**


ガタンっ!

ジープが激しく揺れる。

…そうか。眠ってたのか。

「すいません、大丈夫ですか?少佐」

「あぁ…」

短く返事を返す。

懐かしい夢を見た。私が雨を好きになった時と…雨を大嫌いになった時の夢だ。

窓から外の景色に目をやる。いつの間にか、外は大雨だった。…あの日のように。あの日…ユキがいなくなった日のように…。

「…そうか」

「はい?」

一人呟く私の声に、早川伍長がすっとんきょうな合いの手を挟む。「いや」と返事を返し、私は一人言ちる。…そうか。私が雨を嫌いなのは…そういうことだったんだ。

「…雨は雪を溶かしてしまうからな」

私の声が聞こえたのか、聞こえなかったのか、伍長がその言葉に返事を返すことはなかった。

「少佐。もうすぐA地区の貸倉庫前に着きます。ご準備を」

「あぁ」

ジープのドアを閉め、貸倉庫の扉の前に立つ。

中からは、二人の男が話す声がする。慣れ親しんだ『家族』の声だ。

私はそんな感傷を頭の中から追いやり、スイッチを切り替える。

『家族』ではない、『親愛なるものの仇』へと。

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プロフィール

SP@CE

Author:SP@CE
演劇ユニット『SP@CE』

奈良で活動する演劇ユニット。
2012年6月、始動。


2014年5月 第1回公演「CONNECT」無事、終了致しました。
ご来場いただいた皆様、本当にありがとうございました。


2014年5月現在、次回公演に向けて、役者・裏方募集中です!
詳しくは、下記カテゴリ『募集要項』をご覧ください!

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